今回は、私が現在勤めている梅ヶ丘産婦人科で2年間に妊娠した症例が、どのような治療法でしたのかを検討したので、その成績について、お話ししましょう。
クリニックでは、なるべく自然に近い方法から治療を開始しています。
2019年から2020年の梅ヶ丘産婦人科における治療によって妊娠された方の数は、1,945人です。妊娠された方の治療法別の妊娠数の割合は、タイミング療法で33.2%、人工授精で20.4%、体外受精などの生殖補助医療で46.4%になっています。

治療開始前の4つの検査について

このように、タイミング療法でもかなりの方が妊娠されています。ご存知の方も多いと思いますが、タイミング療法は、排卵日を超音波検査や尿中のLHサージを検出する検査(排卵検査薬)で見つけ、タイミングをとってもらう方法です。ですので、他の方法に比べ、とても自然に近い方法で妊娠することができます。この方法をとるためには、事前に採血検査(ホルモン検査+AMH検査+クラミジア感染症抗体検査)、精液検査、子宮卵管造影検査、超音波検査の4つの検査を行い、異常がない場合は、タイミング療法から治療を開始します。

採血検査、精液検査、子宮卵管造影検査、超音波検査で異常が見つかった場合には?

この4つの検査で異常が見つかった場合は、それぞれの不妊原因に対する治療が優先されます。例えば、精液所見がかなり悪い夫婦の場合は人工授精から、さらに精液所見が悪いと体外受精や顕微授精から開始する場合もあります。これらの治療を行っている最中でも、精液所見が少しでも改善してくれば、人工授精や体外受精、顕微授精の治療成績が向上するため、男性の精液改善治療のアプローチも欠かせません。
卵管が片方閉塞している場合は、閉塞していない側の卵巣に対し、卵胞が発育したときにタイミングや人工授精を行うこともあります。卵胞発育が閉塞した卵管側であっても、必ずしも排卵した卵子が閉塞側の卵管のみに入るとは限りません。このことから、最低でもタイミング療法を行ってもらうこともあります。
両側の卵管閉塞が認められる場合には、昔は自然妊娠を期待して卵管形成術を行っていました。しかし、この手術は自然妊娠が期待できますが、一方で全身麻酔や開腹手術を行う必要があること、手術時間も長時間となることによって患者さんへの負担も大きく、最近では体外受精を行うことが第一選択になっています。
採血検査でクラミジア感染がある場合は、夫婦で抗生物質を服用してもらいます。ホルモンに異常がある場合は、それに応じた薬剤を服用してもらいます。卵胞の発育が認められたら、まずタイミング療法を施行します。年齢の割にAMH値が低い場合は、なるべく早めに治療法のステップアップを考えます。
超音波検査で子宮筋腫が見つかった場合には、子宮筋腫の大きさや存在する位置によって、対応が異なります。子宮の内腔に出ているものでは、小さくても手術で摘出することを優先する場合が多いです。逆に子宮の外側であれば、子宮筋腫がかなり大きくても、その他の検査が正常なら、まずは、タイミング療法を取ることも多々あります。

治療法別の妊娠率について

先程も申し上げた通り、このような治療方針のもと、4つの検査で異常がなければ、まずはタイミング療法を行います。グラフを見てください。全年齢の成績でも、タイミング療法で多くの人が妊娠していますが、さらにこのデータを年齢別で解析してみました。年齢は30歳未満群、30歳から34歳、35歳から39歳、40歳以上の4群に分け、それぞれの治療法別の妊娠数の割合を解析しました。

その結果、30歳未満群でのタイミング療法、人工授精、生殖補助医療における妊娠数の割合は、それぞれ順番に54.8%、18.7% 、26.5%でした。続いて、30歳から34歳の群では、40.7%、22.6%、36.7%。35歳から39歳の群では、28.9%、20.5%、50.6%。最後に40歳以上の群は、20.4%、16.8%、62.8%でした。
このように、年齢が若い群だとタイミングで妊娠する人の割合が高く、20歳代では、妊娠した人の実に半数以上の方がタイミング療法で妊娠しています。しかし、年齢が高くなるにつれてこの割合が減少しています。そして、これに反比例して、体外受精などの生殖補助医療で妊娠する人の割合は、年齢が上がるにつれて高くなっています。これらの結果をから、不妊治療を受けるにしても、なるべく自然に近い妊娠を望むのであれば、出来るだけ若いうちから妊娠を考えることが重要であると考えています。

ライフプランを立てることの必要性

ご存知のように、タイミング療法は他の方法に比べ、経済的にも安価であるばかりでなく、治療に通わなければいけない時間や日数も少なくて済みます。ですので、もし妊娠しようとしても妊娠しにくいと感じた場合は、躊躇することなく、早めに不妊クリニックを受診されることをお勧めしています。
特に、仕事でキャリアアップすることと子どもを持つこと、この両方を考えている方には、若い時に家庭を持つように人生設計することをお勧めします。年齢が若いほど、不妊治療を受けずに済みますし、たとえ不妊治療を受けることになったとしても、より自然に近い治療法で妊娠できる可能性が高いと考えています。すなわち、タイミング療法で妊娠できれば、経済的な面だけではなく、時間的にも子どもを持つための治療に割く分が少なくて済み、その時間を仕事に費やすことができるからです。
確かに、若いうちから子どもを持つと、仕事のキャリアアップと子育ての両立に悩まれることも多いと思います。しかし、不妊治療をされている患者さんの状況を見ていると、不妊治療に通いながら仕事を両立されていらっしゃる状況は、子育てと仕事を両立させる状況と同等、またはそれ以上の心的負担があるように見受けられます。
例え今回の治療で妊娠するか分からなくても、治療を受けないと妊娠する可能性がなくなってしまうためなんとか仕事をやりくりして治療を受けていらっしゃる患者さんの心的ストレスは、計り知れないものがあります。
このようなことから、ぜひ皆さんも、なるべく若いうちから自分の状況にあったライフプランを考えてみてください。