現在、新型コロナウイルスの予防ワクチンの開発が大詰めとなり、皆さんは、早く予防接種を受けることができるようになることを期待していると思います。
今から約100年前に流行したスペイン風邪(インフルエンザA型の亜型)が流行した時も、全世界中がパニックになりましたが、当時はワクチンを開発する技術がないため、公衆学的な予防である接触をせず、隔離など3密回避が唯一取りえる予防法でした。
しかし、現在我々は、幸いなことにワクチンという方法を利用することができます。コロナ感染予防のためには、ワクチンはとても有効な方法です。ですので、早くワクチンの効果・安全性が確認され、使用できるようになってほしいですね。
ワクチンに関しては、皆さんもこれまで、一般のインフルエンザワクチンや風疹ワクチン、麻疹ワクチンなど、ワクチンの多大な恩恵を受けてきました。今回、話題に取り上げるのは、ワクチンの中でも子宮頸がん予防のためのHPVワクチンです。
今年、子宮頸がんの予防のためのHPVワクチン接種に多くの進展があったので、今回年末のコラムで取り上げました。
1 more Baby 応援団の読者の皆さんも考えてみてください。

HPVワクチンが日本で低接種率な理由とは?

このワクチンは、開発段階で安全性や有効性が確認され、2006年には米国で臨床実施されました。続いて、2007年にはオーストラリア、2008年には英国など、次々にワクチン接種プログラムがスタートしています。遅ればせながら日本では2013年4月に小学校6年生~高校1年生相当の女子のワクチン定期接種プログラムがスタートしました。
しかし2か月後の6月に副反応の懸念から積極的な勧奨は中止され、現在もワクチン定期接種プログラムは存在し、接種を希望すればこのプログラムを利用することができ、安価に接種することができます。しかし、積極的な勧奨は中止されたままで、接種率は低率となっています。

このままでは、日本は世界有数の子宮頸がん発生国に!?

ワクチン完遂率を見るとオーストラリアの14~15歳で80%(2017年)、米国の17歳で54.2%(2016年)、スウェーデンの15歳で85%(2017年)であるの対して、日本では2017年の完遂率は0.3%とかなり低い値になっています。
このワクチンは子宮頸がんだけを予防するのではなく、膣がん、外陰がん、肛門がん、中咽頭がん、陰茎がんも予防します。女性だけではなく、男性にも起こる癌(肛門がん、中咽頭がん、陰茎がん)も予防するので、米国では男性にもワクチン接種が勧奨されており、全米の摂取調査によると、2019年に男性の接種率は51.8%と女子の接種率(56.8%)よりも低いものの、年々上昇していると言われています。
世界では接種率が年々上昇しており、子宮頸がんの発生率が低下してきているのに対して、日本では接種が低率のままです。この状態が続くと、日本は世界でも有数の子宮頸がん発生国になってしまいます。今の日本では、毎年約1万1千人の女性が子宮頸がんと診断され、約2800人の方が亡くなっています。

子宮頸がんの約90%を予防できるワクチンについて

図1に示すように、20代30代の女性に増える癌は子宮頸がんと乳がんです。30歳未満の方に限っても年間約1200人の方が子宮を摘出し、妊娠できない状況に陥っています。すなわち、一番妊娠・出産・育児に適した時期に増加してくるのが、子宮頸がんと乳がんなのです。

図1

私は1 more baby 応援団の読者の皆さんに、コラムを通じで妊娠・出産・育児には自分の体の健康も重要であるとお話をしてきました。子宮頸がんのために妊娠できなかったり、出産を途中であきらめたり、育児の負担が大きかったりしないように、予防できる方法があれば予防しておくことはとても大切なことだと思います。
これまでは、年間の子宮がんの発生率の変化からワクチンの効果が報告されてきました。しかし今年初めてスウエーデンでワクチンを接種された方をその後も経時的にフォローアップし、そのデータを解析した結果、子宮頸がんの発生が抑えられていることがわかりました(Lei J. et al. N Engl J Med 2020 Oct 1;383(14):1340-1348.)。
図2を見てください。これは、2006年から2017年に年齢10歳から30歳であった167万2983人を追跡して、子宮頸がん発症率とHPVワクチン(4価)の接種との関係について検討したものです。接種、非接種に関わらず23歳から発症していますが、非接種者と比較すると、接種者は年齢が高くなっても発症率が低く抑えられています。

図2

特に、17歳未満で接種をした人の発症率は、28歳になってもかなり低く抑えられていることがわかります。子宮頸がんはその約95%がHPV感染によるものだと言われています。HPVは200種類以上あると言われていますが、約10種類が子宮頸がん、肛門がん、中咽頭がん、陰茎がん、外陰がん、膣がんに関連していると言われています。
特にHPV16型とHPV18型は、子宮頸がんの約70%、その他のHPV関連がんの大半を引き起こすと言われています。4価のワクチンは、HPV16型とHPV18型に効きますので、約70%の子宮頸がんを予防できると思います。また、本年(2020年7月)には、9価のワクチンが日本でも認可され、このワクチンだと子宮頸がんの約90%は予防できます。

HPVワクチンは、男性のがん予防にも有効

また、日本で接種率の低率化の原因となったワクチンの副反応ですが、現在では、国内外の多くの研究報告がなされ、ワクチン接種との関連性がないことが証明されています。特に本年(2020年)BMJ雑誌に報告されたデンマークの研究では、137万5837人と膨大なデータを扱い、このデータにおいてもワクチンと副反応との関連性は否定されています。
さらに、HPVは男性でも、肛門がん、中咽頭がん、陰茎がんを引き起こすため、厚生労働省はHPVワクチン接種を男性にも拡大しようと審議を開始し、海外では標準となっているHPVワクチン接種基準に追いつこうとしています。
現在、日本で公費で接種できるHPVワクチン定期接種は、小学校6年生から高校1年の女子と対象が限定されており、それより高齢の女性や、すべての年齢の男性がワクチンを接種する場合には、自費となります。しかし、どんな時も備えあれば憂いなしです。皆さんも夫婦でよく考えて、自分たちのことや、子どもが接種時期になったときにどのようにアドバイスするか、よく考えてみてください。
皆さんの妊娠・出産・育児の時期が、より健康で楽しいものになることを願っています。