皆さん、こんにちは。国立成育医療研究センターで周産期・母性診療センターの副センター長をしている齊藤です。私は、産婦人科医として、長年にわたって不妊治療の最前線に立ってきました。そうした中で、みなさんにぜひ伝えたいと思っていることが〈正しい妊娠・出産に関わる知識を知ったうえで、自分に合ったライフプランを立ててください〉ということです。

第1回は、主に男性側の妊娠・出産に関わることについて、そして第2回、第3回は、女性側の妊娠・出産に関することについて、医学的な根拠を交えながら、詳細に説明してきました。
最終回となる今回は、「親の介護」と「不妊治療」についてです。

「妊娠・出産・育児」と「親の介護」は個別の問題ではない

ライフプランを立てるうえで、私が重要だと思っている要素の一つが、親の介護です。現在でも、親の介護のために仕事を辞めなければならない方がいます。核家族が進んでいる現在においては、親の介護が生じると、ライフプランに大きな影響を及ぼします。ですから、親の介護も考慮して、自分のライフプランを立てる必要があるのです。
たとえば、20代で妊娠・出産を計画すると、出産や育児をまだ元気な親が手伝ってくれる可能性が高いと思われます。さらには、親の介護が必要になったときには、すでに育った自分の子どもたちも親の介護に協力してくれるかもしれません。
逆に、40代で妊娠・出産をむかえると、妊娠・出産・育児と親の介護が同時に進行する可能性も高まり、場合によっては、どちらかに支障が生じることがあるかもしれません。

40代で出産をむかえると老後破産の可能性が高まる!?

最近とあるファイナンシャルプランナーのお話を聞いて気づかされたのですが、40代で出産すると、子が卒業するまで教育費などがかかり、自分の老後のための貯蓄ができず、老後破産につながる可能性も高まるようです。
40代でも子宝に恵まれたと聞くと、なんとなくほのぼのとしたものを感じるのですが、一方では老後破産というリスクがあることも頭のどこかに置いておく必要がありそうです。

不妊治療は一刻も早く始めることをすすめます

さて、子どもを持とうと考えたとき、なかなか妊娠しないこともあります。いわゆる不妊症という状態ですが、この不妊症になる確率も、年齢が高いほど上昇します。
したがって、もし妊娠しようと思ってもなかなか妊娠しないと感じることがあったら、なるべく早い段階で、不妊症の専門機関で受診してください。不妊治療をして子どもを授かる確率は、若いほど高いということが知られています。
さらに、不妊治療にはいろいろなものがありますが、若いほど簡単な治療で妊娠することが多いですし、もし高度な不妊治療を受けざるをえなくなっても、同じように若いほど妊娠する確率は高いのです。
図15は、2007〜2014年の日本におけるすべての体外受精の治療を解析しているもので、この8年間の治療開始あたりの出産率(赤ちゃんが生まれる率)を年齢別に表しています。

「もう少し経てば…」
「もう少ししたら…」という
“もう少し”が手遅れにつながる可能性も

ライフプランは個人個人で異なり、子どもを持たないという選択肢もあります。しかし、もし、人生のどこかで子どもを持つことを計画に入れているならば、児を持つ時期をできるだけ若い時期に設定することは、自分自身の計画を達成するために、とても大きな要因となるといえるのです。
確かに、「今は忙しくて子どもを持つことを計画できない。もう少し経てば、時間もできるし、生活の余裕もできる」と考えて、出産を先延ばしされる方もいます。ただ、その“もう少し”が経っても、やはり忙しいことは変わりない、ということも多々あります。
後ろ倒しにしたことで、子どもを持つために不妊治療のお世話になるより、忙しくても時間のやりくりをして、早めに児を持つことを計画したほうが、総合的に考えて良いのではないでしょうか。
今回、4つのコラムにわたって、いろいろなお話をさせてもらいました。その中には、目を背けたくなるようなこともあったかもしれません。
しかし、事実は事実です。だからこそ、そうした事実、つまり“正しい妊娠・出産に関わる知識”を知ったうえで、ご自分に合ったライフプランを立てていくことが重要なのです。
一人でも多くの方が、理想のライフプランを実現することを祈って、筆を置きたいと思います。

*上段図②は、「妊娠率と流産率編」の記事より