「18」といえば、オランダの社会を語る上で欠かすことのできない数字です。そう、1more Baby応援団のオランダ視察をまとめた「18時に帰る」という書籍でもタイトルにしたように、オランダでは、多くの人が18時には家路につき、家族との時間や自分のプライベートの時間を大切にする、という生き方をしていることが分かりました。つまり、非常にシンプルなことですが、早く仕事を終えて帰宅するという習慣や、それを実現できる社会の仕組みがあることが、「子どもが世界一幸せ」と言われる所以でもあります。これが国を象徴するような働き方であり、生き方である。そんなことを示す数字であると感じました。

では、次に「180」とは何を示しているかお分かりでしょうか?
実は、こちらも同じくオランダの社会を表す重要な数字でもあります。

世界一国際的な国

この数字は、現在オランダの首都アムステルダムに住んでいる人の国籍や出身国の数です。一説には190カ国とも言われています。2017年現在、国連加盟国は196カ国とされていますので、この数字からもオランダがいかに国際的な国で、多国籍の人が集まっているのかお分かりになると思います。
実際に、2016年にアムステルダムでは「180」というタイトルの大きな写真展が開かれました。展示されたのは、アムステルダムに住む180ヶ国の住民のポートレートでしたが、ここまで多様性にあふれている国だと言うことを、改めて写真展に並んでいるポートレートを見て実感したものです。
日本から見る外国は、「海外」というだけでどの国も国際的に見えるものですが、オランダでは、オランダ人でさえも「アムステルダムは国際的な都市である」と認識しています。
実は、これはオランダが「小国」であるということを自覚しているからこそ、自ら作り上げた環境でもあります。オランダのアムステルダムがこのような国際的な都市になったこと、そしてオランダ自体が多くの移民や難民を受け入れるようになったのは、ここ数十年の話ではありません。その昔、16世紀から始まったことだとも言われています。
昔から自由と寛容の国と言われていたオランダは、中東やヨーロッパの他の国から肉体的に、あるいは精神的に、思想的に迫害を受けた人が流れ着いた国でした。
ご存知のようにオランダの人口は1700万人で、国土は日本の九州ほどの広さしかありません。このように「小さい国」であることを誰よりも自覚しているのが、オランダの国民自身です。例えばヨーロッパのハブ空港としてスキポール空港が発展していたり、交通や通信インフラが整備されていたり、そして、あらゆる人種が住んでいるのも決して偶然ではなく、ある意味意図的に、政府の戦略として、これらを推進してきた歴史があります。その理由は前述の通り、「小国であるがゆえに、自国だけでは生きられない」、つまり「他国と繋がったり、ハブになることで自国を発展させる」ということが明確に意識されてきたからです。
現在のオランダの話で言うと、イギリスのEU離脱に際しての企業誘致が盛んです。実際に日本の企業でも、オランダに移転を決定したところもすでにあります。ヨーロッパの医薬品を統括する機関の移転も決定しました。また、現在オランダへの移住はアメリカ人が最も多いということも、オランダが実は世界トップクラスの国際的な国である、ということを物語っているかもしれません。

子どもの育ちの環境も国際的

さて、そんな国際的な国でもあるオランダですが、「世界一子どもが幸せな国」と言われているのはご存知の通り。そこで今回は、そんなオランダへ日本から移住した今井さんファミリーに、オランダでの生活について、伺いました。
今井さんファミリーは、アラフォー世代で二人の男の子(9歳、6歳)の4人家族。移住の理由は“子育てのため“というわけではなく、「学生時代に海外に長いこと住んでいまして、日本に戻ってからも常に仕事は海外を相手にしていました。そういった経緯から、家族でいつか海外に住んでみたいと漠然と考えていました。」と、今井さん。そして、いくつかの地を当たったのちに、ご自身の仕事との兼ね合いから、オランダへの移住を決定したそうです。
「教育移住かと言われると、それも多少はありますが、『家族で海外に住もうぜ!』という軽い感じで、もし嫌なら『一年で戻ればいい』と割り切っていました。」とのこと。
しかし、実際に住んでみるとその環境の良さにすっかり家族が順応し、今ではすっかりオランダでの生活を楽しんでいるそうです。

移住後、1年半が経過して、お子さんの学校生活でもいくつか驚くことがあったと言います。
「子ども達を現地の学校に通わせて一年半ぐらい経ちましたが、日本と真逆の教育環境で、我が家の子ども達にはピッタリでした。算数などは日本と比べると格段に進みが遅いですが、逆に世界で何が起こっているのかなどは、間違いなくオランダの子ども達の方が知っていると思います。長男も日本の小学校に通っている時では考えられないような、世界情勢の話題を食卓で出すようになり、『そんなこと学校で話してるんだ!』と夫婦で何度も驚きました。」
また、小学校の最終学年に当たる8年生に送る卒業プレゼントを用意するために、経費を自分たちで集めたのには驚きでした。当時、彼は5年生だったのですが、クラスで一日だけレストランを開業し、親に招待状を出したんです。そして、本物の現金で商売をし、その売り上げで8年生へのプレゼントを用意したのです。どうやってお金を儲けるかを考えさせ、それを実際に行動に移させる。これはすごく子ども達の刺激になったと思います。日本なら『現金がなくなったら問題』ということでブレーキが掛かりそうなイベントですが、こちらは全く問題ありません。こういったお金についての学びは、オランダは進んでいると思います。」
また前述した通り、世界一国際化が進んでいるオランダですが、そんなことを実際に感じるエピソードを聞かせてもらいました。
「小学校の放課後に、学年問わず色々な子ども達が混じり合って遊んでいるのが印象的です。15時に学校が終わって、小さな校庭でサッカーをして遊んでから帰るのですが、いつも色々な年齢の子ども達が一緒にサッカーをしています。そして、みんなやさしいです。次男は3年生ですが、転んで痛がると、それこそサッカーをやっている子ども達全員がよってきて『大丈夫か?』と頭を撫でてくれます。
日本では同じ学年の中の良い友達とばかり遊ぶ気がしますが、オランダでは逆にそれは稀なのかなと思います。また公立校でも色々な国籍の子ども達がいます。長男のクラスにもオランダ以外に5つぐらい違った国籍の子ども達がいます。公用語はオランダ語ですが、英語ができる子もたくさんいるので、自然と英語の力も伸びています。」
この辺りは、なかなか日本では想像しにくい環境かもしれません。

国際的な働く環境とは

しかし、オランダではこうした環境が日常でもあります。また、今井さんの住んでいるエリアの小学校のサッカー対抗戦が平日にあった際には、子どもの数の倍くらいの保護者が参加していて、とてもびっくりしたそうです。実は、今井さんはサッカー関係のお仕事をされていますが、こうしたことは日本では見たことがないと話されていました。
これは、ワークシェアが発達していたり、テレワークや在宅勤務など、働き方の多様性がすでに確立されているオランダならではのことかもしれません。そして、このような働き方が確立されたのは、子どもや家族との時間を優先することが、この国に住んでいる人たちの共通認識としてあるからです。

今井さんのお話で印象に残ったのは、こうしたオランダの現状を踏まえて、「やはり仕事の進め方は効率がいい気がします。上下関係がないこともあるのでしょうが、他人の目を気にしないで、やることをやったら次に進む、または帰宅する。日本が一番変えなければならないことが、こっちでは標準なのだと思います。」ということでした。
働き方改革というと、日本では制度面が重視されがちです。もちろん、それも非常に重要ですが、今井さんの指摘にあるような、意識面での変革も同時に大事にしなければならないことかもしれません。
働き方に関しては、こうした意識が実は世界標準なのかもしれません。世界一国際的な国、オランダ。なかなか学ぶところが多い気がします。

mr-yoshida__________________________________
個人プロフィール
吉田和充
ニューロマジック・アムステルダム /クリエイティブ・ディレクター・保育士
19年間大手広告代理店でクリエイティブ・ディレクターとして勤務したのち、
2016年、子どもの教育環境のためオランダへ移住。
400本以上の大手クライアントのキャンペーン/CM制作などのクリエイティブを担当
食品の地域ブランド開発、化粧品商品開発、結婚式場のブランディング、
田んぼでのお米作り、食品マルシェを核とした地域コミュニティ開発
飲食店や通販事業会社の海外進出プロモート、
皮革製品ブランドのブランディング、企業SNSアカウントの運用など担当。
書籍出版、ニュースサイトなどでの執筆記事、講演など多数。
現在は、オランダと日本の企業を相互につなぎながら、マーケティング、ブランディング
広報広告、インスタレーション制作、イベントなどクリエイティブにまつわる領域で活躍。

【書籍】
18時に帰る~「世界一子どもが幸せな国」オランダの家族から学ぶ幸せになる働き方~

オランダが約30年間かけて行ってきた「働き方改革」について、現地調査の結果をもとに1冊の本にまとめました!
「働き方を変えたい・変えなくてはいけない」と感じているすべての人・企業・自治体・行政機関へ送りたい、オランダが実施する「しなやかな働き方(=ソフトワーク)」とは?
世界一子どもが幸せな国、オランダ。しかし、約30年前までは日本と同じような課題を抱えていました。男性が働き、女性が家庭を守る。経済が低迷したことによって将来への不安が募り、出生率は1.46まで下がりました。
それが現在では、ライフステージに応じた働き方を選択できるようになり、女性や高齢者の就業率も飛躍的に向上しました。それに合わせてGDPも向上し、一人当たりの生産性は日本を逆転したのです。そして、出生率は1.7まで回復しています。
テレワークやワークシェアリング、同一労働同一条件、生産性重視の評価制度など、様々な取り組みによって制度と風土を変えていったのです。
本書では、働き方改革の実現に向けて政府や企業、そして国民ひとり一人が何を行い、そして意識改革を行ってきたのかをまとめています。
著者:秋山 開
単行本: 224ページ
出版社: プレジデント社
言語: 日本語
定価:1500円(税別)
発売日:2017年5月30日