妊娠を考えている人にとって、月経についての知識を持っておくことはとても大切なことです。今回はこの月経についてお話しをしたいと思います。また、最近、月経周期について研究した、とても興味深い論文が発表されましたので、この論文についてもお話しをしていきます。

月経に関する基礎知識

月経が開始するのは、早い人では10歳ぐらいから始まります。月経が開始しても、数年は月経周期が不順な方も多く、また、必ずしも排卵が伴わない月経周期の方もいます。数年かけて、排卵が伴う順調な月経周期を持つようになるのが一般的です。
日本産科婦人科学会の用語集によると、月経とは、「約一か月の間隔で自発的に起こり、限られた日数で止まる子宮内膜からの周期的な出血」と定義されています。正常月経周期日数は25~38日、卵胞期日数は17.9±6.2日、黄体期日数は12.7±1.6、出血持続日数は3~7日、経血量は20~140mlといわれています。
また、排卵は「成熟卵胞の破裂現象」と定義され、通常、月経開始の14±2日前に起こるとされています。このように、月経に関わる現象の日数は、かなり範囲が広く、個人個人で異なることがわかります。ですので、おおよそこの範囲に入っていれば問題ないと思ってください。

年齢によって変化する月経周期

さて、この月経に関わる現象について、最近、多くの人の月経周期を解析したとても興味深い論文が、日本の研究者からObstetrics & Gynecologyという権威ある雑誌に報告されました(Tatsumi T et al. Obstet Gynecol 2020; 136:666-74)。
著者は辰巳嵩征先生らで、以前に私と国立成育医療研究センターで一緒に不妊治療をされていた先生方です。日本人女性31万人の、約600万月経周期のデータを解析し、年齢や季節等が月経現象に及ぼす影響について検討しています。
図1をみてください。このグラフは年齢による平均月経周期長の変化を示しています。平均月経周期長は、15歳から23歳にかけて長くなり、その後45歳にかけて短くなり、45歳以降再び長くなっています。

きっと23歳までの増加傾向は、身体が成熟してくる方の割合が徐々に増えてくることによるものかもしれません。それ以後の45歳までの低下は、少しずつ加齢の影響が出てくる人の割合が増えてくることを表しているのかも知れません。
自分が持っている卵子の数の指標となるAMHも、20代中頃より下がる傾向がありますので、卵子の数の減少に伴い、卵胞刺激ホルモン(FSH)が上昇し、卵胞の発育が早まってくることも影響するのかも知れません。
卵胞期の平均体温は年齢による有意な変化が見られませんが、黄体期の平均体温は29歳まで上昇し、その後プラトー(安定期)になり、42歳ぐらいから徐々に下降し始めています。よって、平均で42歳ぐらいまでは、黄体の機能の衰えないということがわかります。

基礎体温表のグラフがガタガタ!影響しているものとは?

患者さんと基礎体温表に関して話をしていると、「基礎体温表のグラフがガタガタだ」とか、「黄体期に急に体温が下がったりする」と心配されている方がたくさんいらっしゃいます。この現象は、多くの場合はそれほど心配する必要はなく、基礎体温表のグラフというものはこのようなことがよく起こるものであり、それが起こった場合でも正常であると説明しています。
今回の論文による報告には、これを裏付けるデータもあります。図2を見てください。

これは、季節変化に伴う、基礎体温の変化を示しています。左が卵胞期、右が黄体期の基礎体温です。左の卵胞期と比較すると、右の卵胞期の平均体温が全体的に高いことがわかります。さらに、卵胞期、黄体期のどちらのグラフにおいても、冬季と比較すると夏季の平均基礎体温が高く、体外の環境が基礎体温に影響することがわかりました。
この研究では、さらに北海道に居住されている方と沖縄に居住されている方の間でも、卵胞期、黄体期の平均基礎体温に差があるのかを検討しています。図3を見てください。

この図は、地域の気温の季節変動と卵胞期基礎体温への影響を検討したグラフです。左のグラフが、北海道と沖縄の気温の季節変動を示しています。また、右のグラフは、北海道と沖縄に居住されている方の卵胞期における平均基礎体温の季節変動を示しています。
このグラフから、沖縄に居住されている方の方が、北海道に居住されている方よりも平均基礎体体温が、すべての季節を通して高い傾向があることがわかりました。これらの結果からも、基礎体温は外気温の影響を受けることがわかりました。
これらからわかるように、夏に冷房をガンガンにかけて寝た翌朝の基礎体温は下がり、冬場に電気毛布を付けて寝た翌朝の基礎体温は上がる可能性が高いということです。よって、基礎体温表のグラフがガタガタであるとか、黄体期に急に一過性に体温が下がったりすることは、それほど心配はないことも多くあります。

基礎体温表は本当に必要なの?

では、このように基礎体温は外的影響を受けるので、基礎体温を計測して基礎体温表を作成することは、あまり価値がないのでしょうか?
この答えはいいえです。私は、基礎体温表を付けることには、価値があると思っています。このように外的影響を受けますが、その受ける要因を考慮しながら基礎体温表を評価すればよく、また、一日の変化だけにとらわれず、一か月や二か月単位で変化を検討することは、一定期間の体の状態を評価することにおいて、とてもよい指標になります。
血液を採血し、ホルモンを測定することは、とても正確な評価です。しかし、その一時点の評価しかできません。しかし、基礎体温表は、1か月、2か月といった長い期間の体の状態を評価することができ、例えば、ストレスが長期間続くと、卵胞期が長くなったりもします。でも、基礎体温を付けることがストレスになると言われる方もいらっしゃいますので、このような方は、飛び飛びでもよいので、基礎体温を記載することをお勧めしています。
1か月、2か月といった長い期間の体の状態を評価するため、途中に何日か記載しない日があっても、評価には問題が無いことも多くあります。
ぜひ、ストレスのない方法で記載されてみてはいかがでしょうか。