2018年度より、私たち公益財団法人1moreBaby応援団は、日本を子育てしやすい社会に変えることを目的とした助成事業を行っています。2019年度も、数多くのお申し込みがありました。外部審査委員会による厳正なる第一次審査、そして公開プレゼンテーションも行った第二次審査を経て、助成させていただく団体を決定いたしました。
今回ご紹介するのは、そのなかの1つである「NPO法人高槻子育て支援ネットワーク ティピー」です。名前のとおり、大阪府高槻市で子育て支援事業を行うティピーは、「民間団体における切れ目ない子育て支援モデル事業」を推進するため、本事業に応募してくださいました。どんな思いをもって活動を始め、どういった活動をしてきたのか、さらに今後の取り組みについて、発起人であり代表も務める石井さんにお話をうかがいました。

「公園に行っても友達ができなかった」という経験が法人設立のきっかけに

──本日はお時間をいただきまして、ありがとうございます。最初「NPO法人高槻子育て支援ネットワーク ティピー」という団体について教えてください。
「今から25年ほど前のことになります。当時、私は障がい児のための保育施設で働いていましたが、自分も妊娠・出産をしたため、1年間の育児休暇を取りました。そこですごくショックを受けたことがありました。今まで、お母さんたちに対して“公園に行って友達を見つけましょう”とか“1日の生活リズムを整えることが大事です”といったことをお話しさせてもらっていたんです。でも、いざ自分が親という立場になったときに、公園で友達を見つけることができなかったんです」
──知り合いはできるけれど、そこからさらに踏み込んで友達になるというのは、なかなか難しいですよね。
「そうなんです。しかも、赤ちゃんがいる生活ですから、当然自分の思うような生活リズムを整えることもできませんでした。1年の育児休暇を経て、一度は職場復帰したんですが、どうしてもそのことが頭から離れませんでした。そこで、2年ほど経たあるとき、“子育て支援の活動をしたいから仕事を辞めてもいいかなぁ”と夫に相談した上で、子育てサークルを作ることを決めました」
──それがティピーということですか?
「最初に設立したのは、ティピーではなく、別の小さな子育てサークルです。地元のいくつかの公園を練り歩いて、一緒に活動してくれる人を募りました。顔見知りはいたので、思い切って声をかけて、一緒にやってくれませんかって声をかけていきました。最初は6人くらいが集まって、子育てサークルをスタートしました。ママ同士の交流が生まれるという意味では成功していたのですが、私の中で次の課題が出てきました。リーダーである自分が蚊帳の外にいるのではないか、ということです。みんなが仲良く、楽しく過ごしてもらうために、ずっと緊張して、肩肘張って頑張っていたので、近寄りがたい存在になってしまっていたのだと思います」
──それで、どのような行動を起こしたのですか?
「ほかの子育てサークルのリーダーさんたちに、どのようにサークルを運営しているのかを聞くことにしました。具体的には、サークル同士の交流会のようなものを開催しました。最初は3つのサークルが集まってくれました。それが地元の子育てサークルである“わんぱくらぶ”をつくってから1年後のことです。結果的に、この交流会がティピー発足のきっかけになりました」

活動内容について「高槻市の公共事業として」

──自分自身が抱えていた課題から、形を変えながらティピーに至ったということですね。ティピーという名前の由来についても教えてください。
「最初の頃に一緒に活動をしていたアウトドア好きな方が、布をつなぎ合わせて作るインディアンのテントのことを教えてくれたのですが、その布と布をつなぐ器具の名前がティピーと呼ぶらしいと。そこから取りました。インターネットを調べると、実際にはインディアンのテントのこと自体を指すみたいですけど(笑)。とにかく人や各サークルのつなぎ役をしようという思いを込めています」
──現在の活動内容についても教えてください。
「大きく分けて、高槻市の補助金事業と自主事業の2つを行っています。高槻市の事業は、『ティピーおやこの広場』という地域子育て支援の拠点を運営しています。基本的には、この広場を月曜から金曜の10時から16時までで、予約なしで自由に来てもらい、帰りたい時間に帰ってもらう形になっています。子育てに不安を持っている方、ちょっと息を抜きたい方、親同士で交流したい方などが来て、スタッフがそれとなく親同士をつなげたり、近くに住んでいて、気が合いそうな方同士を紹介したりしています。それ以外にも、保育士がいるので、保育スペースで一時預かりをしたり、小さなお子さんがいる家庭以外の地域住民のみなさんにも来訪を促して、世代間交流を行ったり、子育てに関する講習会を企画・運営したりしています」

活動内容について「NPO法人の自主事業として」

──自主事業というのは?
「高槻市の事業を行っている場所とは、別の拠点で行っている『にじっこ』になります。幼稚園の就園前のプレスクールをしたり、個別学習が必要な小学生のために勉強を教える“てらこや”という活動をしたり、いろいろな障がいを持ったお子さんやその親御さんを支えるようなプログラムを実施したりしています。私自身、障がい児のための保育施設で働いてきた経験があり、課題意識を持っています。そうしたことも関係して、同じ法人のなかでも棲み分けをさせて、公共事業と独自事業の2つを実施しています」
──なぜ棲み分けをしているのでしょうか?
「“おやこの広場”は公共事業ということで、できないことがあります。“本当はもうちょっとこの親子にはこんなサポートができたらいいのに”と思うことがあっても、なかなかできないこともあります。それならば、“おやこの広場”でできないけれど、地域にとって必要で、大事なことができる別の拠点を思い切ってつくって、やっていこうと考えました」
──スタッフが少数精鋭ということですが、2拠点を運営するのはなかなか大変ですよね。
「現在のスタッフは9人です。みんなフルで頑張ってくれていて、なんとか回している感じですね」

子育てママたちに求められているものに応えるために

──ティピーに足を運ぶみなさんは、どういった目的をお持ちなのでしょうか?
「ひとつは友達ですね。それも、子どものお友達をつくってあげたい。もちろん親である自分の友達もいればいいなということですけど、今の子育て中の親御さんたちは、すごく真面目な方が多いので、子どもの優先度が高いと感じます。それから、講習会も開いていますので、そういったものに参加される方は、交流だけではなく、子育てについて学びたいという意欲もお持ちなのだと感じます」
──子育てに関する知識を得たいということですね。
「そうですね。自分が親になるまで、子どもに触れたことがない人は多いと思います。だから子育てについては、みなさん“知らない”ということが前提にあるので、学ぶ機会はあったほうがいいですよね」
──自分で子育て情報を得ようとインターネットを検索する人も多いと思います。
「ただ、自分で調べるとなると、今の時代は情報が多すぎる。それはそれで大きな問題です。情報の海に飲まれてしまうことを避けるためにも、プログラム形式にすることで、情報を体系立てて伝えていく。それによって安心して子育てに向き合えるのではないでしょうか」
──実際に、まわりがどんな子育てをしているかも気になりますよね。
「はい。やっぱりみなさん、まわりがどういう子育てや生活をしているのか知りたいのだと感じています。でも、それは普段の交流の中ではなかなかストレートに出てくる話ではないので、私たちのような存在がうまく間に入ることで、本当に聞きたかったことを引き出して、情報交換できるようになればいいなと思っています。講習会やプログラムをきっかけにみなさんの思いを汲み取って、普段の交流の中で我々がさりげなく情報交換を促していくような形がよいのではないかと」
──具体的には、今後どういったプログラムの提供を考えているのでしょうか?
「妊娠期から、地域とのつながりをつくり、安心して子どもを産み育てる見通しを持つためのプレママ支援事業がひとつ。これは、ティピーのスタッフであったり、地区担当の保健師や助産師であったり、民生委員児童委員などが子育て情報を提供したり、プレママ同士をつないだりといった支援を考えています」
「もうひとつは親学習プログラム事業です。きちんと体系立てたプログラムを行うことで、情報を提供するだけでなく、自分で考える力を養うことができればと考えています。子育ては、目の前にいる子どもの性格や親である自分の性格、生活背景などによっても変わりますので、あくまで正解を押し付けるのではなく、知識として伝えたいことを自分なりに消化して、自主実行してもらえればいいと思っています。もちろんプログラムとして複数回に渡って集まることで、子育ての仲間づくりにもつながると考えています」

“切れ目のない子育て応援”のためには行政と民間の連携が欠かせない

──もともとご自身の子育ての悩みからスタートしたものが、25年以上というすごく長い期間、続いています。どういう思いをもってやっていらっしゃるんですか? 目標はあるのでしょうか?
「昔から、目標ってなんですかって聞かれるんですけど、私はあまり大それた目標ってないんですね。20年以上も続いてきたのは、目の前の子育て中の方に、どんな形で寄り添えるか、ということを考えてきた積み重ねだと思っています。その形は時代とともに変わっていて、最近だったら、『仕事をしているので平日の集まりには参加できません』という声をもらうことも多かったので、お休みの日に“ワーキングママの集い”を実施しました。子育て講座も同じで、子育ての事を学びたいという声をきっかけに始めたものです」
──そうした声というのは、自然と集まってくるものですか?
「私たちは“広場”という場を持っていますので、日々、現場で直にママたちと接しています。そのなかで、聞こえてくる声に耳を傾けると、何が求められているのか、どんな課題意識を持っているのかが伝わってきますね。そうしたことに対して、私たちはできる範囲で応えていきたいですし、あるいはファシリテーターとしてそういう場を企画・提供していきたい。今後も、その積み重ねでしかないと思っています。その意味で、大それた目標を持っているわけではないということです」
──“切れ目のない子育て”というキーワードを掲げていらっしゃいます。切れ目のないというのはどういうことでしょうか?
「もともと私は障がい児施設の保育士だったので、広場の中で、少し発達が気になる子どもさんに出会うことがあります。
障がいを特に気にしていない方、少し気になっている方、そういった傾向を感じてはいるけれど、認めたくないという方もいらっしゃいます。そういう2歳、3歳では診断がつかないようなの場合、お母さんの中には、明らかに困っている方もいますので、そこに救いの手を差し伸べられるような活動をしていきたいと思っています」
「また、子育てというのは、妊婦のときから始まります。高槻市でいえば、保健センターや『カンガルーの森』と呼ばれる子育て総合支援センター、そして私たちのような広場があります。子育てに関わるNPO法人もたくさんあります。行政が行っている施策とNPOなどの民間が実施している取り組みが、うまく連携して、みんなで一緒に切れ目のない子育ての応援ができるようにしていきたいですね」
──本日は、どうもありがとうございました。