不妊の原因の多くは女性にあると思っている人もいらっしゃるかと思いますが、現在は、男女どちらにもほぼ半々の割合で不妊原因があると考えられています。
平成27年度厚生労働省子ども・子育て支援推進調査研究事業「我が国における男性不妊に対する検査・治療に関する調査研究」で行われた全国調査では、男性不妊の原因として最も多いのは「造精機能障害(精子を造ることができない、または造る精子の数が少ない)」が82.4%です。
次に多い原因は、「性機能障害(勃起できない、射精できない、逆行性射精{(射精された精液が体外でなく膀胱内に排出される)など)」が13.5%、第3位に「精路通過障害(精子の輸送経路が詰まっている)」3.9%となっています。
今回は、これらに対する一般的な治療について解説しましょう。

生活習慣の改善と薬物療法について

治療には「内科的な治療」と「外科的な治療」があり、内科的治療にも大きく分けて、「生活習慣を改善する方法」と「薬物療法」があります。最初に、生活習慣を改善する方法ですが、生活習慣の中で、食事、飲酒、喫煙、体重、睡眠、温度環境、職場環境、運動などが造精機能に関与すると言われています。
特に喫煙は精子形成と強く関与しており、喫煙により精子濃度、精子運動率、精子正常形態率が明らかに低下することが報告されています。さらに糖尿病、腎臓疾患、うつ病、虚血性心疾患、アルコール依存症の病気がある人は男性不妊のリスクが高く、これらの疾患の治療も大切です。
また、様々な薬剤が造精機能に影響しますが、特に男性型脱毛に用いる毛生え薬は、アンドロゲン作用を抑制し造精機能に影響するため、中止することを検討する必要があります。また抗うつ薬は高プロラクチン血症を引き起こし、性欲減退、射精障害、勃起障害などの性機能障害を起こし、さらに精子の所見の悪化を起こす事があるので、薬剤の中止・減量、または変更することが必要となります。
薬物療法には、「内分泌療法」および「非内分泌療法」があります。非内分泌療法には、ビタミン剤、漢方薬、サプリメントなどがありますが、効果に関しては明らかなエビデンスは存在しません。一応、薬剤としては、ビタミンE(精子の抗酸化作用)、ビタミンC(精子の抗酸化作用)、ビタミン12(代謝賦活作用)、カリジノゲナーゼ(精巣への血流改善)、エンザイムQ10(精子のエネルギー代謝を促進)、エルカルニチン(ミトコンドリアの活性化)、補中液湯(精子濃度や運動率の改善)などがあります。
内分泌療法には、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症に対する薬剤投与があります。薬剤としては卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンの作用を持った薬を注射します。または、飲み薬としてはクロミフェンを服用します。

勃起障害と射精障害について

性機能障害の治療のうち、「勃起障害」は、障害を改善する勃起障害薬剤(PDE-5阻害剤)を服用します。「射精障害」では、「膣内射精障害」と「逆行性射精」が問題になることが多いと言われています。
膣内射精障害とはマスターベーションでは勃起や射精に問題ないのですが、性交時事に膣内射精まで至らないことをいいます。
治療は難治性ですが、治療法としてはマスターベーションの改善に努めたり、カウンセリングを行います。
逆行性射精は糖尿病の患者に見られることが多くこれに適した薬剤を投与します。

手術が必要なケースと手術療法について

男性不妊症に対する手術療法には、①「精索静脈瘤」に対する根治術、②「無精子症」に対する精巣内精子採取術(TESE)、③「閉塞性無精子症」に対する精路再建術があります。先に示した全国調査では、精索静脈瘤手術1388件、精巣内精子採取術926件、精路再建術80件が施行されていました。
精巣静脈瘤は、精巣からの静脈血の流れがうっ滞・逆流することにより、精子に悪影響を与える疾患であり、解剖学的に左側に多く起こります。
診断する要件は、触診とエコーにより静脈直径が太いことと、血液の逆流が認められることです。治療は、静脈を結紮し逆流を抑えます。。
先の全国調査では、手術を行った人の約74%のケースで効果があったと報告されています。
TESEは、無精子症の患者に行われる精子回収法です。閉塞性無精子症(精路のどこかが閉塞しているためにおこる無精子症。精巣では精子がつくられている。)には、一般的なTESEを行い、部分的な麻酔である局所麻酔で精子を回収します。
先の全国調査では、98%のケースで精子が回収されています。
非閉塞性無精子症(精路のどこも閉塞していないが、精巣で精子がつくられていないか、ごくわずかしか作られていないために起こる。)には、より大きな麻酔で、精巣内部を顕微鏡で観察し、精子形成がされている部分を摘出し、精子を回収します(マイクロTESE)。先の全国調査では34%のケースで精子が回収されています。
最後は性路再建術ですが、これは精子がつくられてから射出されるまでの精子輸送経路の閉塞している部分を取り除く手術です。昔は多く行われていましたが、顕微授精の成績が向上してきたため、現在ではあまり行われなくなっています。先の全国調査でも生殖に関わる泌尿器科の手術のうち約3%しか行われていません。

男性が治療中の妊活について

さて、男性に治療を行っているときは、女性への不妊治療は控えるべきでしょうか?答えは「いいえ」です。男性の治療中でも、男性の精液所見を考慮した上で、治療を行えば妊娠の可能性があると考えられるときは、治療を中断せず継続してください。例えば、男性が生活習慣を改善しているときや薬物療法を行っているときでも、タイミングを取ってください。また、TESEは、顕微授精の治療と同時に行います。
今回は、男性不妊症の一般的な治療法について解説しました。男性不妊症の多くは造精機能障害であり、生活習慣の改善や種々の薬剤投与が行われています。また、近年、晩婚化に伴い精子の老化もあり、精液所見が悪い症例が多くなっています。精液所見が悪いと生殖補助医療(ART)の成績も悪くなるので、男性側も年齢を意識し、なるべく早めに治療を考えることも必要になっています。