いきなりですが、「世界一子どもが幸せ」の理由を探りにオランダを訪問したとき、驚かされたお話がありました。

基本的にオランダで出産したママは出産後すぐに帰宅します。この「すぐに帰宅」は、ヨーロッパにおいてはそこまで珍しいことではありませんので、ご存知のかたも多いのではないでしょうか。
驚いたのはそのサポート体制です。出産後すぐに帰宅するママをサポートする体制に、オランダならではのものがあったのです。
そもそも、実際に日本で出産を経験したことのある皆さんには、「すぐに帰宅して大丈夫なのか」と思われる方もいるかもしれません。しかし、母子の健康状態にもよりますが、大きな問題がなければ、母子ともに数時間後には自宅にいるというのはごくあたりまえです。
さらにいえば、オランダでは病院ではなく自宅出産を選ぶという妊婦さんも一定以上います。私たちが訪問したUniversity Medical Center Utrechtでのお話によると、約13%の妊婦が自宅出産を選んでいるそうです。自宅出産を選んでいるということは、そもそも最初から頭に「入院」という二文字がないということです。

産後ママをサポートする「クーラムゾルフ」ってなに?

産後ママをサポートする最大のポイントとなるのが「クラームゾルフ」です。クラームゾルフとは、産後ケアを専門に行う国家資格者(kraamverzorgster)が、産後8日間にわたって毎日自宅訪問をしてくれて、さまざまなケアをしてくれる制度です。
基本的には朝から夕方まで自宅に滞在し、新生児の発育チェックやお世話の仕方、悪露の処理、洗濯などはもちろんのこと、来客へのお茶出しやご飯の支度といったことまで、まさに至れりつくせりなケアをしてくれる制度です。とても羨ましいですね。
しかも、クラームゾルフは最も基本的な保険でカバーされるため、「無料」なのです。

オランダのパパの産後休暇は短い。でもきちんとサポートできるワケ

これは、オランダ訪問を行った2016年時点で「今後改善していきたい」とオランダの厚生労働省にあたる機関の方々が話していたことですが、じつはパパの産後休暇は長くありません。
企業によってはもっと長いこともあるようですが、基本的にはパパの産後の有給休暇は2日間しか認められていないのです(2017年現在は法律が変わり5日間になったようです)。
別のヨーロッパの国では、もっと長く、2ヵ月だったり6ヵ月だったりといった、より長い有休を取得できるところも少なくありません。
たとえクラームゾルフという制度があっても、「パパが2日間しか休めないのであれば、産後のママはゆっくりできないのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、そんなことはありません。そもそも新生児の健康管理などの専門分野はパパではなく、先のクラームゾルフやその後バトンタッチを受けたホームドクターが担当します。
一方で、メンタルのケアや家での雑事については、必要に応じて職場で事情を話せばパパは在宅勤務を選んだり、時短勤務をしたりすることが、オランダでは容易なのです。
さらに、オランダの職場では家族の状況などをチーム内で非常にオープンに話す文化があります。ですから、出産の数ヵ月前から、あらかじめチームとしてどうサポートできるのかについて、特別なこととしてではなく、自然に話し合っておくことができるのです。
もちろん、そもそも基本的には残業をしない“18時に帰る”という文化ですから、「仕事に追われてパパがまったく育児に参加できない、ママのケアができない」ということもありえません。
国として、企業として、家族として、とても合理的かつ柔軟に対応しているのです。出産直後を含め、パパも仕事と子育てを両立できる制度や風土があり、産後のママにゆっくり休んでもらう体制は整っているといえます。

出産前から退院後のママのサポート体制を決めておくことが大切

一方で私たち日本ではどうでしょうか。先の行政からのサポートと同様に、パパの協力についても、再考すべき状況だと思います。
日本でも、出産当日やその後の数日こそ会社を休んでママの側にいてあげるパパは少なくないと思いますが(私たち1moreBaby応援団のアンケート調査では、一人目の出産の立会いについて、67%のパパが「立ち会った」と答えています)、ほんとうの意味でパパのケアが必要となるのは看護師さんのケアがなくなる“退院後”です。
しかしながら、「出産から数日間休みを取った分、働かなければ」と、むしろ退院時以降に残業をするパパも多いのではないでしょうか。
出産予定日は事前に把握できるのですから、ぜひともあらかじめ社内で働き方を調整し、出産後数ヵ月〜半年は育休を取得したり、残業をしなくてもよい状況にしたりする、あるいは必要に応じて在宅勤務ができるような体制を整えておくなどの工夫をしたいところです。
仕事でも大切ですよね、状況が変わるときほど早めにチームに報告し、対策を練ることが。
出産も同じです。
新しい家族を迎えるにあたって、パパが中心となって会社や祖父母などと話し合うことで、ママをサポートする体制を事前に組んでおくことが大切なのです。必要に応じて上の子どもの世話をシッターさんにお願いしてもよいでしょう。利用に際しては自治体からの補助がある地域もあります。
子どもが生まれてからあたふたしては、ママにも会社の同僚などにも心配をかけてしまいます。ですから先ほども言いましたように、ぜひとも産後ママのサポート体制については、“あらかじめ”考えてほしい問題なのです。