本連載は、女性(妻)の働き方や生き方に合わせて、男性(夫)側の働き方や生き方を変えたという子育て家庭の話を紹介するものです。
第1回と第2回でご紹介しているのは、妻の仕事に合わせて、夫が「在宅勤務」という働き方を選んだ佐々木さん夫婦の話です。

前回は、佐々木さん夫婦が、愛知県と東京という遠距離婚生活を選ぶことになった背景と理由について、時系列に沿って見てきました。
本稿では、夫のヨシアキさんが人事部からの「在宅勤務をフルに使って、月の半分を愛知県で過ごしてみては?」という提案を受けて、社内で前例のない2拠点生活に突入するところから話が始まります。
(※本連載に出てくる名前はすべて仮名です)

人事も上司も後輩も背中を押してくれた

「まさか本当に月の半分も愛知県にいられるとは思っていませんでした。そういった話があった当初は、せめて土日に合わせて金曜日に在宅するとか、そのくらいのイメージだったので」
これは、妻のアキコさんが夫の在宅勤務について開口一番に話してくれたことです。夫のヨシアキさんも同じような思いを抱いていたようです。
「僕のほうも、人事部や上司と在宅勤務について話し始めたときは、土日に合わせて月曜とか金曜を在宅勤務するくらいの感じでいました。でも人事からこう言われたんです。『都合さえつけば、月曜から金曜までずっと向こうで在宅勤務してもいい』って。上司のほうも『やってみなよ』と背中を押してくれました」
その結果、夫のヨシアキさんは、人事部から提案のあった「月の半分を愛知県で過ごす」ということを実行に移しました。しかし本当に、在宅勤務、それも社内で前例のない2拠点生活への移行はスムーズにいったのでしょうか。ヨシアキさんは言います。
「(在宅勤務を開始するにあたって)上司とは話し合いの場を持ちました。そのときの直属の上司はとてもリベラルな考え方を持っている人だったこともあって、『その都度仕事で影響が出てきた人同士で話し合って調整してくれたらいい。細かいことは任せるよ』とわりと軽いノリで言われました」
ヨシアキさんの場合、仕事で大きな影響が出そうなのは後輩の2人だったそうです。そこでヨシアキさんは飲み会の最中、その後輩に対して神妙な面持ちで事情を説明しました。
「『自分がいないということで、君たち2人に何らかの負担がかかる可能性があるし、すぐに業務上の相談に乗れないこともあるかもしれない』と神妙な面持ちで伝えたら、後輩もノリが軽くて、『良いじゃないですか。こっちは問題ないですよ〜』と言ってくれました。そう言ってくれて2人には感謝しています」
しかし、実際に在宅勤務を始めると、「意思疎通の部分では迷惑をかけているはずだ」とヨシアキさん自身のほうが心配になってきました。そこで、2人の後輩以外に、もう1人いる個人的に仲の良い後輩に探りを入れることにしました。
「あの2人は、自分がいないことで大丈夫かな? 迷惑とかストレスを感じてないかなって別の後輩に聞いてみたんです。そしたら『心配しているところ言いづらいんですけど、まじで負担とかストレスとか感じてないと思いますよ』と言われました。必要以上に自分が気にしているだけかもしれません。でもやっぱりちょっと気になりますよね」